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何て事を…


by kankyou118
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ラスト

ニューヨークの8番街に男は居た。

街は相変わらず、雑踏の音で賑わって居た。
きびきび歩くビジネスマン、
買い物帰りの女性、
犬の散歩、
自転車便の青年、
道路工事、
時々やって来るパトロールカー
遠く、近く、
取材のヘリの爆音も聞こえる。
街の公園のベンチでは、
ホームレスのベスが煩さそうに
空を見上げて居た。

男は白人、
三十五歳、
元FBI捜査官だったが
変わり者で、仕事に溢れてしまった。

今はフリーター。
遅い昼食の後、
ぶらぶらと8番街を
歩いていると、

携帯にメールが届いて来た。
《Mr.》
其れを見るだけで、
男は内容を見ずに
携帯をしまって居た。

「ジェフお帰り。」
「ああ…。」
中古のアパートに帰ると、
いつもの様に
ベットに身を投げ、
テレビを着ける。

「オーやりました。日本の柔道。
矢張り本家本元。
これは…。」
(何だ。)

ジェフは詰まらなそうにテレビを消した。
そのまま寝込んでしまった。

「RRRRRRRRRR」
煩い電話を取ると
「おいっ。今何時だと思っている。」
仕事場の上司の怒鳴り声で眼が醒めた。
「…。」
仕方無く、
冷蔵庫の牛乳を飲み、
部屋を出た。
大特急で、
仕事場に行くと、
「ジェフ、何様のつもりだ。」
「申し訳有りません。」
腐りながらも、街外れの倉庫で
何時ものフォークリフトで
荷降ろし作業にかかった。
「おおいっ、何してるんだ。」
「ちぇつ。」
ついて無い日は駄目だ。
その時、ジェフの
携帯が又鳴った。
携帯にメールが届いて来た。
《Mr.》
其れを見るだけで、
男は内容を見ずに
また携帯をしまって居た。



「RRRRRRRRRR」
電話を取ると
「儂だ。判って居るだろう。」
「…。」
男は直感的に脳裏に走った過去の記憶。

「儂だよ。判って居るだろう。」
「…。」
「何故黙って居るんだ。」
「命令だよ。」
「何の権限で。」
がちゃり。
男は電話を切ると時計を見た。
深夜の二時だった。
男は白人、
三十五歳、
元FBI捜査官だったが
変わり者で、仕事に溢れてしまった。
昔のしがらみで、
何か非常の問題があるらしい。
何故俺が、
もう、良いじゃないか。
「RRRRRRRRRR」
電話を取ると
「儂だ。判って居るだろう。」
「どうしたら良いんだ。」
「明日例の場所に、
そう、午後二時に会おう。」
「其れは…」
がちゃり。
都合を云う前に切れてしまった。


豪奢な造りのホールに、
執務室と
小会議室と
私的なエリアがあった。
ドアが開いて
神経質そうな男が入って来ると、
「連絡が付きました。」
「遅い。」
「申し訳ありません。」
「他に居ないのか。」
「生憎…。」
「舐められたもんだ。」
「で、話は付いたか。」
「はい、此れからで。」
「遅い。」
「はい。」
「きっと、承知させるんだ。」
「奴が嫌なら他の奴でも構わん。」
「はい。」
男は控え室に戻ると
物思いに耽った。
それは、男が十代の頃の記憶だった。
おれは、
そう。ハイスクールの三年だった。
スポーツ万能で、
キャンパスでは人気者だった。
「おい。トム。」
「何だか忙しそうだな。」
「いや、そうじゃ無いが、今此れに凝ってるんだ。」
「なんだい。」
「シロオビだよ。」
友人のトムは汚い稽古着とやらを突き付けた。
饐えた匂いに咽せた。
「何だ此れは。」
「知らないのか。
今度学内に出来た〝ジュードー〟のジムさ。」
〝ジュードー〟?



「彼がジュードーの師範だよ。」
其れは背の低い、
足の短いアジア人であった。

「コンニチハ。私がジュードーの守口と申します。」
赤銅色の笑顔が、
白い柔道着で際立って見えた。
友人に無理矢理すすめられる侭、
男はジュードーの
虜に成ってしまった。
静寂なジムの一室で、
正座瞑目も、
不思議な体験であった。
「ハジメッ。」
あっと思った瞬間、
彼の視野は180度ひっくり返った。
天地が逆転した。
途端、脳天と
全身に衝撃が走った。
呼吸困難に一瞬混乱した。
「此れは東洋の不思議だ。」
思わず狂気した若い彼が居た。

其の年の秋には
キャンパス内のジムの門下生も板に付き
男はシュギョウの日々を
送ったものである。
「おい。最近付き合いが悪いぞ。」
「…。」

「そうだわ。あなたが来ないと、
ぜんぜん盛り上がらないわ。」
「しばらく放っといてくれ。」
「何初めたの。」
「聴いたぞ。ジムに誘われて、
ジュードー始めたらしいな。」

「…」
「なあ。おい、どうしたんだ。」

「ま。良いから、放っとこうぜ!」
男はその後、馴染みの連中と手を切った。

何が彼をかえたか。
脳裏に

赤銅色の笑顔が、
白い柔道着の男守口。
彼の
いや、東洋のフ・シ・ギの
魔力に帽子を脱いだのであった。



豪奢な造りのホールに、
執務室と
小会議室と
私的なエリアがあった。
ドアが開いて
神経質そうな男が入って来ると、
「連絡が付きました。」
「そうか。」
「奴とコンタクトは…。」
「明日チャンスが…」
「はっはっはっはっはっは。天下のOISOも
形無しじゃないか。」
「猶予を。」
「判った。」
「今、ジュードーの世界では我が国は
立ち後れて居る。」
「はい。」
「儂が高々一武道の盛衰に振り回される訳には行かない。」
「はい。」
「我が国は、総べてナンバーワンでなければ成らん。」
「はい。」
「特に儂は、東洋のフ
・シ・ギを制覇したい。」
「はい。」
「はっはっはっはっはっは。
詰まらん妄執と思うかね。」
「いいえ。」
「頼むぞ」
「お任せを。」


ニューヨークの6番街に男は居た。

街は相変わらず、雑踏の音で賑わって居た。
きびきび歩くビジネスマン、
買い物帰りの女性、
犬の散歩、
自転車便の青年、
道路工事、
時々やって来るパトロールカー
遠く、近く、
取材のヘリの爆音も聞こえる。

男は白人、
三十五歳、
元FBI捜査官だったが
変わり者で、仕事に溢れてしまった。

又今朝も早くから携帯が鳴った。
一瞬男は躊躇った。
「ちっ。またか。俺だ、例の件だろう。」
電話の向こうでは、事務的な
一方的なメッセージを伝えて来た。
「8番外のカフェ.テリーヌで待って居る。」
男は乱暴に電話を切った。
陽当たりの良い、南向きの通路角に
カフェ.テリーヌは有った。

男が入ると、
迷わず一番奥の席に向かった。
「遅かったぜ。」
「此処にタイムカードは無かったぜ。」
相手は2メートルを越えた、
大きな男だった。
握手を求めたが、
男は嫌った。


8番外のカフェ.テリーヌに男は居た。
「ボスが、執心でね。」
「…俺には関係無いね。」
「判るだろう。」
「知らんね。」
「冷たい奴だぜ。」
「じゃ、聴くが、」
「何だい。お前がハイスクール時代、全米を沸せた
あのジュードーへの情熱は何だった。」
「くっくっくっくっくっく。」
「何が可笑しい。」
「仕事で徹底的に教わったのは、
丸腰じゃ、黒帯は何の価値も無い。」
「馬鹿じゃ無いか。」
「そんな事じゃ無い。」
「判ったよ。ボスのご執心の為に。」
「ジュードー世界制覇の秘密ジムを建設するんだろ。」
「いや、その程度じゃ無い。」
「何だ。」
「そんな事は誰でも出来る。」
「お前を呼んだのは、今迄に無いグレートスキル。」
「?」
「それを考えて欲しいと云う事。
誰にも破られない。」
男の眼に冷たい光が宿った。


8番外のカフェ.テリーヌに男は居た。
「ボスが、執心でね。」
「…俺には関係無いね。」
「判るだろう。」
「知らんね。」
# by kankyou118 | 2010-05-03 06:00

コリントスの星


古代ギリシャはアテナイ、
テーバイ、
コリントスなどのポリスの立ち並ぶ、
エーゲ海、
イオニア海が潤す、
いにしえに栄えた國であった。

アテネはサロニコス湾にめんした、
最大の都市で有ったが、
エーゲ海が潤す、
多くの島々は昔から変わらない佇まいを成していた。


この村はイリソスと云う、
古代から現存する村であった。
ギリシャは雨の少ない温暖な地で、
古来から漁業の盛んな國である。

この小さな村には、
ロコスと云う、
七歳の少年が居た。
人見知りの有るはにかみ屋、
色白の母親似の小さな男の子であった。


少年は今日も学校が終わると、
友人達と近くの海岸で、
ボール遊びをしてから帰宅するのだった。
「ロコスや、ロコス。何処居るんだい。
又、道草喰って居るんだね。」
その母親の愚痴が始まる頃、
少年は帰って来るのだった。

「御免よ母さん。
ちょっと用事があって。」

「その話はもう聞き飽きたね。」
「もっと増しな答えを考えるんだね。」
「…。」
そんな時父親が帰って来て、
いつもロコスの弁護をしてくれるのだった。

或日ロコスは、父親のお使いで、
峠を越えて、
隣の町
ソルンまで出かけた、
街道を歩いて居ると、
蒼い蒼いそらが、
限り無く続き、
サロニコス湾から、遠く
エーゲ海も
遥かに霞んで
見えた。
「…。」
其の時ロコスは何かの鳴き声を
耳にした。
思わず見上げると、
天空に
何か
白い影を見た。
雲では無い、
何物かが、
視界を横切るのが
分かった。
気のせいかと振り返ると、
近くの岩山の峰に白い
生き物の様なものが
はっきりと見てとれた。

何だろう。
そう思った瞬間。
消えると。
背後で
「見たな!」
声に成らない声が、
脳髄の中で囁いた気がした。

(大分以前に《未定》と云う事で発進した
物語りが、忘れ去られて居ましたので、
取りあえず進めます。ネタが切れた時が
終了です。悪しからず。
他にも何か有ったきがするが。はて?)

其の時
ロコスは、
「君は誰?」
と思った。
すると言葉に成らない内に、
「私は、呼び名は無い。」
と、ロコスの頭上に大きな生き物が
舞い降りた。
「あっ。」
ロコスは驚いた。
「ペガスス!」
「はっはっはっはっは。
そう。ペガススとも云う。
東洋では天馬とも云う。」
ペガススは白い、
眩しい、大きな翼を広げると、
ロコスの前に姿を現した。
「大変驚いた様だが、
お前には私が見えても、
誰にでも見えるものでは無い。」
「…。」
「驚いているな。」
「…。」
「友だちに成ろう。」
ロコスは聞いた。
「ペガススがどうして僕の前に…。」
「はっはっはっはっは。
そう。気紛れさ。」
「気紛れ?」
じっとロコスを見つめたまま、
心に語りかけた。
「人生に、おっと私は人間じゃ無いが、
人生に気紛れは大切なものだよ。」
「…。」
「君には未だ判らない事かも知れない。」
「友だちに成れるかい。」
「其の前に、少し説明しておこう。」
「…。」
「私は、地球の生命体ではない。
古代から、君達の住む地球に
立ち寄る、異星人なのだ。」
「…。」
「はっはっはっはっは。
そう。未だ判るまい。」
「…。」
「友だちには成れそうかい。」
ロコスはにっこり笑った。
「はっはっはっはっは。
そう。此れは良かった。」

エーゲ海は
アテネのサロニコス湾の
夕陽が
きらきらと
銀砂をまぶした様に
煌めいた。

「何か希望は有るかね。」
ペガススはロコスに尋ねた
ロコスは
かるく顔を横に振った。
「そうだ。」
「…。」
「空を飛んで見たいと思わないかね。」
するとロコスの瞳がきらっと輝いた。
「うん。」
「さあ。乗りたまえ。」
ペガススはロコスが乗り易いように、
ひざまずいた。
ロコスがペガススの
大きな背中に跨がると
やがてペガススは
真っ白い大きな翼を
大きくひるがえすと、
ふわっと
宙に舞い上がった。

「嗚呼。凄い。」
其れきりロコスは言葉を失ってしまった。

エーゲ海も
サロニコス湾も
広大な大地も
あっと云う間に
下に広がる
一大パノラマであった。
空は群青色に、
そして一番星が輝き
あちこちに
小さな星々が輝きだした。
海はもう、深いネービーブルーに
沈み込んだ。
港の家々が灯りを点し出した。

「あっ。」
ロコスは大事な事を思い出した。
「お家に帰らなきゃ。」
「家だって。それは、大事だ。」
ペガススは大きく反転して、
ロコスの家に向かった。



イリソスの丘のふもとに
あるロコスの家は、
とうに夕暮れ時を過ぎていた。
家の裏手にある糸杉の後ろに
ペガススは降り立った。

物音に驚き、
家の中からは
ロコスの母親が飛び出して来た。
「ロコスどうしたんだい。
こんな遅い時間まで。」
「ごめんなさい。」
「どこに居たの。」
「道に迷って…」
「お前が此の辺りで、
道に迷う事があるのかい。」
遠くでペガススは、
こちらをじっと見つめているが、
ロコス以外の人間には
ペガススの姿は見えないらしい。
「まあ、たまの事だ許してあげなさい。」
優しい父はロコスの事を大目に見たいようだ。
悲しい顔をし乍ら、
ロコスはペガススを
目で探したが、
もう、ペガススは飛んで行ったのか。
見えなかった。

ロコスは
その夜夢を見た。
暗い大地は何処迄も広く、
沢山の街の灯りが
銀河のように煌めいた

ロコスはと云えば
まっ白なペガススの羽の間に
座って

天高く、
もはや、
月へ手が届くほど
空高く飛んで居た。   


遠い空の
果から、
大きな流星が、
ごおぅっと
音を立てて
通り過ぎ

シリウスや
ケンタウロスが
ギラギラと 怪しく
輝いていた。
三つ目の流星が、

ペガススの近くを
すり抜けて、
あっと云う間に
ペガススは落ちて行った。
「ああ〜〜恐いよう。」
ロコスは其の時
ハッと目が醒めた。
でも恐かった。
でも、すてきだった。
そうこうと、
夢を見ている内に、
「ロコス起きなさい。
朝ですよ。」
母の声。
一日の始りでした。


しばらく何事も無く
ロコスも学校の仲間との
遊びに夢中になって居た。
その日の夕暮れ
食事はロコスの
大好きなお肉のスープでした。
一家の団らんの後、
「ママお休み。」
「パパ。」
「お休み。」
温かいベッドで
ロコスは夢の世界でした。
夜中の10時頃、
窓の外から、声が聞こえます。
「ロコス居るかい。」
目がさめて、起き上がり、
窓を開けると
濃紺の空に、白い銀河が
そら一杯に広がっていました。
「ペガススかい。」
眠い目をこすりながら、
窓の外へ乗出すと、
そこには、
純白の翼を広げた
ペガススが居た。
「大空に散歩はどうだい。」
「行くよ、行くよ。」
ペガススの翼に
飛び乗ると、
羽はするすると広がり、
満天の大空へ羽ばたくのだった。
(いいなぁ〜)
今夜も銀色の月が
空高く輝き、
遠く水平線の彼方に、
小さく船の灯りが
瞬いて居た。
すると
小さな蜻蛉くらいの
小人が
キラキラと
輝き乍ら
ペガススを取り巻いた。
「これは何。」
「はっはっはっはっは。」
「光の精を知らなかったのかい。」
「学校では習わなかった。」
「習わなくても、存在するものは有るのさ。」
「ふうん。」

古代ギリシャはアテナイ、
テーバイ、
コリントスなどのポリスの立ち並ぶ、
エーゲ海、
イオニア海が潤す、
いにしえに栄えた國であった。

アテネはサロニコス湾にめんした、
最大の都市で有ったが、
エーゲ海が潤す、
多くの島々は昔から変わらない佇まいを成していた。


この村はイリソスと云う、
古代から現存する村であった。
ギリシャは雨の少ない温暖な地で、
古来から漁業の盛んな國である。

この小さな村には、
ロコスと云う、
七歳の少年が居た。
人見知りの有るはにかみ屋、
色白の母親似の小さな男の子であった。

「ロコスよ起きなさい。」
「かあさん眠いよ。」
「ロコスよ。」
ロコスが目を覚ますと
暗い部屋に
天窓から、
蒼い光が差し、
部屋の中は
まるで、
海の中のように
透明だった。
窓の外には
真っ白なペガススが
羽をたたみ、
こちらをじっと見つめ乍ら
語りかけていた。
テレパシーなんだ。
「ロコス。
もっと世界中を眺めて見ないかい。」
「世界中。」
「そうさ。東へ行くと、数々の
砂漠や、山脈を超えて、
塩の湖や、
炎の山。広大な緑の原野。
更に広い海を渡ると、
黄金の國、ハポンがある。」
「黄金の國、ハポン。」
「そうさ、儂も未だ見た事は無い。」
「行こうよ。」
ロコスはふと、両親の事を思った。
「はっは。直ぐ帰れるさ。」
「そうか。」
ロコスは深く考えずに
行く事にした。
「ちょっと待って。
お父さん、お母さんに手紙を書くよ。」
「うん、それは良い。」

「では、行こうか。」
ロコスが頷くと
ペガススは大きな青白い羽を
大きく広げ、彼を乗せた侭
緩やかに羽ばたいた
すると地上は
緩やかに下降し、
ロコスの視界は
徐々に広がって来た。
空は暗くて蒼い色に沈み
満天の星が
怪しく煌めいた。
東の空には、
今昇り始めた三日月が
優々と水平線の上に
佇んでいた。
「あっ。」
一瞬、
ロコスは、
お母さんの声が聞こえたような気がした。
なぜか、
お母さん、
お父さんに
申し訳無い気がした。
「ロコス、どうした。」
ペガススの声が、
冷たく、意地悪に聞こえた。
ロコスの家は、
最早遥か彼方、下のほうに
小さな灯りだけが、
寂しく見えた。
「おかあさ〜ん。
おとうさ〜ん。」
ロコスは無性に涙が
こらえきれずにいた。
「今更、後悔をして居るのかな。」
「…。」

















「」「」

「」
「」
「」「」

「」
「」
「」「」
# by kankyou118 | 2010-05-03 05:59

「その名はGreat10」

《αの組曲》
「此所は何処だ?」

巨大な地下空間にあるタイムカプセルの
集中センターで、
儂は目覚めた。
高い天井の巨大空間には、
ハニカム構造の蚕棚がびっしり連なっていた。
各々の棚には、
銀色のカプセルが並び
無人のリフトが、
忙しそうに立ち働いていた。
ガツンと儂の閉じ込められている
カプセルが揺れた。
ズ〜ンというモーターの音と
一緒に下降して居るのが判った。

この話は…明日で終了かも知れないし、
可成り続くかも知れない。
以上



「その名はGreat10」

京王線新宿駅に、
新しい交通機関が乗り入れられた。
“Great10”400型。
この三十数年、
人類はCO2の問題解決に
何事も成し得なかった。
其処で民間の大手企業が
到頭、巨大投資を試みる事と成った。
group「Great10」の出現だった。

7月7日、
七夕の日に
温暖化対策の最終決起大会が行われた。
会場は、
新しいビジネスと、
劣悪な環境に如何に都市部の人間が
生き残るか必死の聴講者一万人が
ひしめいて居た。
「市民の皆さん。
既に為政者に過大な期待をするのは、
無駄な事を私達は学びました。
此処で大切な事は、
我々は、政治家を頼りにせず、
事業として、儲けながら、皆様に
還元。そう、安全な生活権を還元いたします。」
「ここにgroup「Great10」を立ち上げました。
東京近郊に新たなGreatcity「Great10」を建築します。」

(これは飽くまでも暑さで夏惚けの
妄想サイトでございます。)


《αの組曲》

“Great10”400型。
は音も無く、地下道を走った。
赤いスポットが、
時々通り過ぎた。
時速200㎞でひた走ると。
30分程で、
見かけない駅に着いた。
「当車輌は…間もなく…“Great10”の
ステーションに到着…します。」
「お降りの方は…
お忘れ物等…ございません様お願いいたします。
この車輌は、
当ステーションを出ますと、
車庫に…」
此処が、そう、“Great10”だ。
いや…“Great10”専用下車ホームだ。
「“Great10”に始めて下車の方は、
〝N〟ゲートを、お進み下さい。
改札の前に、本人証明の登録を致します。」

「やけに、厳しいね。」
「いや〜、こう云った環境、エコ対策も
色々な人々の利害が絡んで来るらしい。」
「まあ、嫌ね。」
無事〝N〟ゲートを過ぎると、
X談社の記者、X氏が出迎えてくれた。
「ほ〜〜。以外と想った以上に規模がでかいね。」
「未だ、何にも見ない内に、其の言葉は止してくれ。」



X談社の記者、X氏は“Great10”の中を、専用カートで
説明してくれた。

「“Great10”は何と云っても巨大だ。
一つのブロックが、縦横、3,000m四方、
高さは500m。」
「まるで山だ。」
「そう、巨大な蟻塚と云った方が早い。
形は。」
「金字塔。」
「それは、良い表現だ。」
「金字塔(ピラミッドの事)」
二十二世紀の金字塔。
何でこの時代になってピラミッドなんだ。
「そう、何でピラミッド?て顔に書いてある。」
「観給え。偉大な偉業だ。」
「そうかも知れない。
しかし、偉大な愚行かも…。」
「今迄の人間の居住空間は、
個建て住宅の歴史だった。
今迄の人類の歴史にそって、人生の
目的でも有った。
しかし、これまでの個建てにしろ、
集合住宅にしろ、
大した違いは無かった。
しかし“Great10”は違う。
一番の違いは、エネルギー使用、
エネルギーのリサイクルが、
効率よくできる。」

「…」
「“Great10”の外見は、ピラミッド型だ。
この巨大」




《αの組曲》と云うものを
すっかり忘れていました。

“Great10”は一ブロックは
ピラミッド型で、
その4つの面には、棚田の様な、緑地帯と、
太陽光発電パネルの面が、ランダムに設置されて居る。
その二十二世紀の巨大ピラミッドが、
山脈の様に、多摩地区に連なって居た。
その“Great10”の内部には、
エネルギー変換プラントが有り、
施設内のあらゆるエネルギーを、流動させ、
無駄無く活用して居る。
また、食物生産ブロック、
行政ブロック、
商業施設ブロック、他、
様々な区割りがなされて居た。

「凄いね〜。」
「住みたいね。」
「でしょ。」
X談社の記者、X氏は自分の事が誉められた
様に喜んで居た。
しかし、
この“Great10”に居住希望の人間は、
例のCocoon centerの
蚕棚にお世話に成るんじゃな。
しかし、その復活の保証は儂はせん。
皆、あの二十一世紀の、
温暖化の嵐を潜り抜けて来た者達じゃ。
割り込みは絶対阻止せねば成るまい。
「…。」


真っ暗な室内に
計器類のモニターだけが
明るく見えた。
「RRRRRRRRRRRRR。」
「ああ煩い。」
(こんな所まで、
何でネジしきの寝覚し時計を持って来るんだ。
今22世紀だろ。)
「おい。起きろ朝だぞ。」
「未だ暗いよ〜。」
「なんだと。夜討ち、朝駆けが我家の鉄則。」
「んん〜〜。また始った。」
「起きた起きた。」
せんさーで、壁の超LEDが灯った。
「ほ〜れ。朝だ。」
「呆れた。」
窓からシールドを通して朝日に照れ去れた
蒼い地球が輝いて居た。
「こう毎日見て居ると、地球のこの大画面映像も
感動が薄れて来るなあ。」
さあ、今日も地球の新世界
“Great10”のサポートだ。
「おい、賢。」
「ちょっと、外部のパネル見てくれないか。」
日常食の宇宙食は和食の朝食だ。
「ねえ、その、パック入りの蜆汁は、何とか成らない?
一日じゅう、ステーションの中が味噌臭くて…。」
「何を生意気云ってるんダ。
日本人なら、空の上でも味噌汁よ。
国内産の大豆を使った、しかも有機栽培だよ。」
「解った。」
オートロックのハッチを出て船外に出ると、
此処は酷寒の世界だ。
息が凍えて真っ白。
(此れは嘘)
真上に蒼い巨大なドロップが、太陽を浴びて
輝いて居る。
毎日見なれていても。
矢張りDNAが騒ぐ。
「さあ。今日も頑張るぞ。」




暗い闇の底は
どこまでも深かった、
耳を劈くような金属音が
鳴り響いた。
遥か上空から
オレンジ色の巨大な矢が
落ちて来た。
「全員配置。」
ロケットは逆噴射と共に
地表すれすれで
宙に浮かび
静かにホバーリングしながら
着地した。
ロケット最下層の
ハッチが音を立てて開いた。
「やー。」
「P.シリウス号。ようこそ。」
「はーっはっは。山木君暫くだった。
随分と歳をとったね。」
「男爵随分とお若い。」
「これも、恒星間飛行のお陰かな。」
「久々の地球だがその後“Great10”はどうしたかね。」
「“Great10”?」
「男爵。“Great10”とおっしゃいましたが。」
「温暖化対策の最終決起大会が行われた。
会場は、
新しいビジネスと、
劣悪な環境に如何に都市部の人間が
生き残るか必死の聴講者一万人が
ひしめいて居た。
とそんなドキュメントを見て
儂は地球環境から
独り離脱した卑怯者さ。」
「…男爵。
貴方は、温暖化の最悪の序曲の
始る前に地球を離れた。
そして恒星間旅行で、
時空を超えて、
地球が
人類が行くべき宿命の道から
新しい希望の星に再生されたのを
ご存知無い。」
「そ、それは目出たい。」

てな地球環境になったらいいなあ。
# by kankyou118 | 2010-05-03 05:57

《虹》

え〜大江戸神田明神下を下ってしばらく行くと、
「何処なんでい。」
え〜それが何処だか判らないもんでして、何しろ東京が、お江戸と申した頃でして、
文献を調べても載って居ないと云う。
貴重と云うか、馬鹿馬鹿しいジャンルの噺でございます。
其処に、権平長家と云う何処にでも有りそうな長家が有りました。
不思議な事に、此処にもやっぱり、熊さん、八つぁんが居た。
世にも不思議な、え〜物語りでがして。
「おいおい、熊。」
「何だい、薮から棒に。」
「昨日、明神下の何とか云う、あれ。」
「占師か。」
「どうして知っているんだよ。」
「いつもの話だろ。」
「最近景気が悪くて、商売上がったりんで、
何か目出てい話は無いかってんで、相談したって訳よ。」
「馬鹿だね。今どき占師の話を、真に受けて、大成した奴は居ないよ。」
「…良いよ。もう。」
「…何、どんな話なんだよ。教えてみなよ。」
「いや、もう云わん。」
「お前さんねえ。今だから云うけど、先日お前が借金で苦しんで居る時に…」
「ああ、判った判った。話すよ。」
「そう、こなくっちゃ。
こちとら、閑して居るんだ。」
「何だ手前の閑潰しの相手かよう。」
「まあ、良いじゃないか。」
すると突然がらりと戸が開いて
「おや、お二人さん、何の相談かね。」
「あ、ご隠居さん。いえね、こいつがね、」
「おい、勝手に話すなよ。」
「未だ聞いて無えんで。」
「どう、したんだい。」
「いえね、ここんところ何かと景気が悪いもんで、何か旨い話が無えかってんで、神田明神下の、え〜何とか云ったっけ。そう大福堂とか云う占師に…」
「うんうん、其れなら私も聞いた。」
「え〜そんな。大マイ払ったんだよ。」
「まあ、法螺話かも知れんが、夢を買ったと諦めなさい。」
「そんな…」
「おいおい、二人で納得してお終いかい。
俺にも話してくれよ。」
「ん。聞きたい。」
「ご隠居も人が悪い。」
「話し手も良いけれど、一回五文戴くよ。」
「え、それは無いでしょ。」
「はは、冗談だよ。」
「八つぁん矢張りあの話かい。」
「あれって、虹の話ですよね。」
「ああ、やっぱり。」
「やっぱりって、虹がどうしたんだい。」
「今年の運気によると、寅歳生まれの男が…」
「八つぁん寅歳かい。」
「おう、寅歳よ。」
「俺は熊歳。」
「それは聞いちゃいないよ。」
「ちえっ。」
「おちょくって居ないで」
「すまんすまん。」
「早い話が今年寅歳の男は、夏の夕立ちの後、虹が出たら、小高い丘の上に登ると良い。と云う事。」
「ただ、其れだけ。」
「いやいや。その虹が出た時。
その虹の橋の袂をしっかり見なさい。と云う事。」
「へえ。それで…」
「橋の袂を粋な芸者が通るとか…」
「しまいにゃ、怒るよ。」
「ご隠居、帰りましょ。」
「ご免ったら、ご免よ。」
「…橋の袂を、虹が消える前に掘るとだ。」
「な、何か始るんですかい。」
「あれが…」
「出るそうな。」
「あれって」
「お化けじゃ無いよ。」
「うるせいっ。」
「お宝がざっくざっくと出るらしい。」
「ふ〜ん。」
「そ〜。」
「う〜ん。」
「そうなんだよ。」
「で、ご隠居は行くんですかい。」
「あっしはこの歳で足には自信が無いからねぇ。」

ってんでそんな夢の様な話が
「此処だけの話だよ。」とか
「誰にも云っちゃ嫌だよ。」
と云ったって、止められ様が有りません。
あっと云う間に、
数時間後に、髪結い床でも、
井戸端でも、魚屋、
南町奉行所のお役人の溜りでも、
広がったものですから大変です。
そんな浮き世地味た話が
下町から、武家屋敷、
果ては千代田城の公方様の
大奥まで広がったから大変。

と云う訳で丁度時間と成りました。
え〜お後が宜しい様で。
え、お後が宜しく無い…

失礼しました。では本題に戻ります。

虹を見るったって、いつでも見れる訳では無いのは子供でも判っています。
段々気候が穏やかに成って、
愈々夏も盛りに成りました。
落語の話は何でも早い、
すぐ、お爺ちゃんにも成れる。
そんな話はどうでも良い?
え〜五月頃から、良い歳した男共が、
仕事もしないで、

「虹、虹が出ないかな〜」
てんで夏に成ると、江戸の高台を、
ぶ〜らりぶ〜らり。
駿河台、護国寺、飛鳥山、
日暮里あたり、愛宕山
虹が見えそうな高台に沢山の閑人が
集まりました。
小人閑居して不善をなす
とか申します。
凄いもので、そんな高台に夕立ちを求めて、
人が集まるとですね、
軈てあっちへ、おでん屋。
こっちへ甘酒屋、
「え〜おせんにキャラメル。落花生は如何。」
ご商売ですね。
するとその屋台の一角に
何やら見た事の有る顔が一人。
「え〜占いは如何。
貴方の運勢は如何か…」
「おい、八つぁん。あれを見なよ。」
「あっ。占師。」
「こんな処に居た。」
「占いの先生。」
「おっ、元気で。」
「元気じゃ無いよ。どうしたんで。」
「儂か。いや儂は商売じゃ。」
「ご熱心で。」
「稼がないとな。」
「だってこの話は先生の診たてじゃ。」
「はっはっは。残念じゃが、儂は鼠歳でな。
鼠じゃ仕様が無い。寅には勝てない。」
「それで商売商売か。」
軈て騒ぎに奉行所のお役人が来る、
がしかし、取り締まる程の事でも無い。
ひょっと空を見上げると、
愈々夕立ちが始りました。
「来た。来た来た〜。」
さあ、降る前に虹は未だかと大騒ぎ。
到頭、車軸のような太い雨雫が
ざーざーと降り始めました。
「いよ〜雨だお宝だ。」
大変な騒ぎ。
すると通り雨の様にあっと云う間に
雲の切れ間から、
お天道様がさーっと現れ。
ずんずん青空が広がるや、
あっちでも
こっちでも。
「虹だ、お宝だ。」
「お宝はどっちだ。」
鵜の目鷹の目で
虹の橋の袂に向かって
高台からどどーっと駆け降りる。
もうこりゃ。
青梅マラソン、
東京マラソンの非じゃございません。
みな金の亡者の大レース。
「あっちだ。」
いや、
「こっちだ。」
「遅れるな。」
到頭一等始めに橋の袂に辿り着いた八つぁん
あちこち見回すと。
「あっ。虹が、消える消える。」
「そうれっ。掘れやっ。」
「此処は俺の所場だ。」
「消える…」
あんなに綺麗で見事だった虹も、
事と次第では地獄の沙汰。
敢え無く八つぁんの
真夏の夢は終わりと成りました。
「その辺りが今の宝町の駅だったかどうか知る人ぞ知る。」
お後が宜しいようで。
# by kankyou118 | 2010-05-02 21:41

《須弥山》


最近妙な話を書いています。私は大分昔より、千一夜物語り、日本の昔話、伝説、神話、西遊記、中国の怪奇小説、捜神記、東野物語、落語他雑多な物を読んだ為か、時々無性に書きたくなる時があります。たわいも無い話です。勿論出た所勝負。立派な方の様な構想らしき物も余りない、非常に頼り無いものです。落語の『うなぎ』に、「おいおい。一体何処へ行くのだい。」「あっしにも判らないんで、前に行って、うなぎに聞いてくんねい。」全くその通りで。



その一

長安の都に露宝という青年が居た。親爺は広く商いをして、大変羽振りが良かった。露宝は物心が付いた時から、何不自由無く育った。露宝十七歳の時に長安で疫病が流行り、露宝の幼馴染みで、許嫁の桃妃が呆気無く死んでしまった。其れからと云うもの、誰からも愛された美少年の露宝は目の輝きを失い、あっと云う間に見窄らしい青年になってしまった。そして一年間と云うもの、親元で蜻蛉の様な、生気のない暮しをして居た。次の年に春風と共に、何処へともなく見えなくなってしまった。「お〜〜〜い。露宝や。」「お〜〜〜い。息子や。」二親は気が狂わんばかりに探し廻った。其んな事で見つかる程の事では無かった。露宝は一体何処に行ったのであろうか。夏の熱い頃、長安から西に暫く歩いた田舎町に、露宝に良く似た青年が居たそうな。



その二

秦陽と云う街道筋の街に、一軒の飯屋があった。店の前は時折、牛馬が曵く荷駄が乾いた砂埃を上げながら、がらがらと通り過ぎて行った。「お〜〜い。客だよ。早く注文を取って来な。」「へいっ。」青白い顔をした若者が、店主の顔色を伺いながら、高麗鼠の様に働いて居た。「全く気が利かないんだから。一体何処の生まれなんだろ。」そんな店主の女房の声を耳にしながら若者は黙って一日を過ごすのであった。或日、そんな若者の耳に、こんな客の声が聞こえた。「全く幸運なもんじゃ。」「何がだ。」「いや、霊峰須弥山を遥か彼方に拝んだ時の感激さ。一生に一度拝んでごらん。良い人生を掴めると云う事さ。」
仏教の宇宙観において、世界の中央にそびえるという山。風輪・水輪・金輪と重なった上にあり、高さは八万由旬(ゆじゆん)(一由旬は四〇里)で、金・銀・瑠璃(るり)・玻璃(はり)の四宝からなり、頂上の宮殿には帝釈天が、中腹には四天王が住む。日月はその中腹の高さを回っている。須弥山の周囲には同心円状に七重の山があり、その外側の東西南北に勝身・贍部(せんぶ)・牛貨(ごけ)・倶盧(くる)の四州があり、さらにその外を鉄囲山(てつちせん)が囲っている。贍部州(閻浮提(えんぶだい)ともいう)が人々の住む世界に当たるとされる。スメール。蘇迷盧(そめいろ)。すみせん。(goo辞書より)


その三


「これっ、露宝。何をぼやぼやして居る。」「へいっ。」あれこれと用事を済まし、漸く遅い昼と成った。店の客も居なく成って、露宝の自由な時間となった。
露宝は急いで外へ出ると、先ほどの年老いた旅人を捜した。幸いにも街道を東の方へ、とぼとぼと歩く姿を見つけると、「お爺さん。」「ん。何だね。」「先ほどの飯屋の者ですが。」「何の用事かい。代は払ったが。」「いいえ、先ほどのお話の続きをお聞きしたくて。」老人はとても驚いた顔をした。「話しの続きと…。」「須弥山…と、申しましたね。」「ほっほっほっほっほっほ。お若いの、聞いて居ったね。」「…で、一体何を聞きたいのじゃ。」「私は…」「ん。」「幸せを手にしたいのです。」「ほっほっほっほっほっほ。」老人は可笑しそうに笑った。「須弥山を拝んでみたいと…。」「ええ。出来れば登って見たいと。」老人の顔は真面目になった。


その四

若者の目には久々に光が灯った。「辛いぞ。人生には他に幾らでも愉しみが有る。」「いえ、良いんです。その須弥山と云うものを見てみたいのです。」老人は云った。「ま、座りなさい。」だが、若者は気もそぞろで、座る気にも成れない様子だ。「うむ。名は何と申す。」「露宝と申します。」「うむ。良い目をして居る。」
「だがの世の中には、法螺話しと云う物は五万と有るぞ。」「…。」露宝は一瞬、驚いた目をした。「本当なんでしょ。」「お前は信ずるか。」「はい。」きっぱりと云った。「ほっほっほっほっほっほ。」老人は又可笑しそうに笑った。「そうか。お前さんも。では行って見るかね。」「はい。」二人の視線の向こうには、大陸の広大な荒野が広がって居た。



その五

「では本当に参るのじゃな。」「はい。」「後悔するやも知れぬぞ。」「はい。」若者はきっぱりと云った。「分かった。儂は此れから庵に帰る。お前も来なさい。」「はい。」「儂は先に帰って待って居る。」「…はい。でもどう行けば。」「心配はいらん。此れから西へ七百里参ると香留檀国の豊穣山に中仙堂がある。尋ねて参れ。」「…。」「此れは、心に強く念ずると、飯でも何でもあらわれる。」と赤い瓢箪を手渡した。「無くすんじゃないぞ。」「はい。」老人は東風に乗って瞬く間に飛んで行った。



その六

はいと返事はしたものの、突然始まった旅は厳しいものであった。来る日も来る日も、砂漠から真っ青な天空に強烈な太陽が昇ると、辺り一面全ての物を灼き尽す暑さであった。「ああ、渇いた…。」その時露宝は気が着いた。「あっ。此れがあった。」と半信半疑に瓢箪に向って、「水をくれ。」すると何にも起らなかった。露宝は焦った。「しまった。」人生を過ったか。と、全身から滂沱の冷や汗が出た。すると瓢箪の中から、小さな声が聞こえた。「信じるのじゃ。強い信念で…。」露宝はまた強く念じた。「水。」すると砂漠の地面の、くぼみから、滾滾と水が湧いて来たのには驚いた。





その七
露宝は魔法の瓢箪で飯を出す事を覚えた。露宝はふと、天空に聳え立つ『須弥山』を思い浮かべた。砂漠の中に見い出したキャラバン商人の道を偶然に見つけると、近くに程よいオアシスを見つけた。もう露宝には『須弥山』などどうでも良くなってしまったのだろうか。朝から晩まで、懐の大事な瓢箪を取り出すと、家、馬車、家具、食料品、衣類、中々旅をを思い出す事は最早無かった。



その八

或日オアシスに数十人の隊商が訪れた。商人たちは余りにも調度が整って居るので皆怪んだ。が、やがて気心も知れて打ち解けあう様になった。隊商の中に気の会う少女が居た「貴方のお名前は。」「露宝。」「こんなオアシスにどうして一人で暮らして居るの。」「そ、それは。旅をして居るのさ。」「どんな旅かしら。」露宝は突然の事に驚いた。少女の顔がいつかの旅の老人の顔になった。「何をして居る。『須弥山』はどうした。」はっとして全身から冷たい汗が出た。どうやら夢を見たらしい。露宝は一人、夜のオアシスに居た。



その九
白い空を見上げると灰色の雪が、限り無く降り続く。激しい風に、飛ぶ鳥さえも見えない。そんな中を雪をかき分けて進む人影が見える。吹雪く凄まじさに吸う息も喘ぎ喘ぎであった。旅僧とも行者とも、浮浪者とも見えた。吹雪きの切れ間に遠くの家並みが垣間見えたのであろうか。「むむっ。」恨めしそうに天を睨んで、目指す人家を訪ねた。鄙びた村の石造りの家を前に「ご免下さい。」戸を叩いた。ややあって、古びた戸が軋みながら開いた。「誰じゃ。」



その九

「誰じゃ。」老婆が顔を出した。「旅の者でございます。」「…。」「ひ、一晩なりとお泊め下さい。」「…。」「お願い致します。」じろりと頭の先から眺め廻した。「お宝は持って居ないのだろうね。」と意地悪い目で云った。「はい。些かも。」「儂が渡した瓢箪はどうした。」若者は腰を抜かさんばかりに驚いた。「あ、貴方は…。」「はっはっはっはっは。儂じゃ。」老婆は何時ぞやの旅の老人であった。「露宝。儂があの宝を預けた筈じゃ。」露宝は?#92;し訳無さそうに、「捨てました。」老人は真っ赤な顔をして「何故じゃ。」露宝はきっと見上げると「はいっ。あれが有ると、富に満たされ、代わりに心を、」「ふむ。心をどうした。」「心を失ってしまいます。」「はっはっはっはっは。」老人は大笑した。



その十
「あっはっはっはっは。あの瓢箪は如意の瓢箪と申して望むもの全てが叶うと云うに。」「いえ、望むもの全てが労せずして瞬時に叶う、こんな恐ろしい事はありません。」「ほっほっ、ほう。望むもの全てが労せずして瞬時に叶うのが恐いと。」「はい。私は未だ人生と云うものが判りませんが、労せずして全てが叶うは、有難いようですが、かえって困難を超えてのみ叶う希望と云う事の方が、宝と思います。」「うむ。良う云った。少し此の世の真実に目覚めて来たようじゃのう。」「お師匠さま。」「お師匠だと。はっはっはっは。」「私の目指す山は何処に。」「迷うな。真直ぐ進め。」「あの、どの路を歩めば…。」「はっはっはっは。迷わす真直ぐにな。」老翁は霧の様に消えた。


その十 一
荒涼とした大地。砂の路が続く。見渡す限り樺色の視界の遥か彼方に、一本の天と地の境が見渡せる。降り返り見れども、同じ景色が続く。広大な盆の真ん中に露宝が居た。一時程、呆然として居ると人の声のような囁きが聞こえた。「其の侭、西に歩け。」来る日も、来る日も太陽の沈むのを目指して歩き続けた。夕刻になると小高い丘に辿り着いた。依然として人家は無い。何処からともなく白い霧が流れて来て、露宝は空腹を覚えた。丘の麓に大きな岩が有り、傍らに無花果の木が生えて大きな実が成って居た。「無花果とは色気が無いが、有難い。」思わず手に採って、むしゃぶり付いた。余りにもの旨さに、露宝の顔は綻んだ。「儂の無花果を勝手に喰いおって。」露宝は腰を抜かした。「あ、貴方はお師匠様。」「はっはっはっはっはっはっはっは。」どう云う事かと思って露宝は、目を醒ました訳です。
秦陽と云う街道筋の街に、一軒の飯屋があった。店の前は時折、牛馬が曵く荷駄が乾いた砂埃を上げながら、がらがらと通り過ぎて行った。「お〜〜い。客だよ。早く注文を取って来な。」「へいっ。」青白い顔をした若者が、店主の顔色を伺いながら、高麗鼠の様に働いて居た。「全く気が利かないんだから。一体何処の生まれなんだろ。」そんな店主の女房の声を耳にしながら若者は黙って一日を過ごすのであった。或日、そんな若者の耳に、こんな客の声が聞こえた。「全く幸運なもんじゃ。」「何がだ。」「いや、霊峰須弥山を遥か彼方に拝んだ時の感激さ。一生に一度拝んでごらん。良い人生を掴めると云う事さ。」

時に貴方。
この拙い話をお読みの貴方。
「全く幸運なもんじゃ。」「何がだ。」「いや、霊峰須弥山を遥か彼方に拝んだ時の感激さ。一生に一度拝んでごらん。良い人生を掴めると云う事さ。」
と云われたら、
どう致します。

「そんな閑人じゃ無いよ。」
そうですね。
人生当て所の無い事に
無駄に時間を費やしてはいけません。
若い時期
何かの志を持って
有意義に生きなくては。
世の中には
若者の心を惑わす
そんな話しは多いです。
でも人生の目標の無い方はどうしたら良いか。
そうですね、
人のお役に成りそうな事を
進んでおやりなさい。
きっと良い人生の目標が
見つかるかも知れません。
貴方にはきっと
素晴らしい
何かしらの
役目が有るのです。
世間は
貴方が動き出すのを
きっと待っているのです。
失敗しても
諦めず
頑張ってごらんなさい。

自分の中に
素晴らしい
使命がある事を
発見しましょう。

あしたに
道を聞かば
ゆうべに
死すとも
可成り

と云う言葉もあります。
# by kankyou118 | 2010-05-02 21:40